染めで表すYoichiタータン ささなみ染色工芸
余市の町を象徴するもの、町の人に愛されるものとなるよう願いが込められたタータン。
駅前にはタータン旗が掲げられ、エルラプラザではタータン柄のマスクなど、赤いチェックをあしらったアイテムが人気です。
今回の物語は、これらのタータン柄を染めた染め物屋さん、ささなみ染色工芸のお話。
色を染める技について、余市で染色の仕事をすることなど、浮かぶ想いを代表の笹浪淳史(ささなみじゅんじ)さんに伺いました。
余市の染め物屋さん
海沿いを走る国道五号線沿いに佇む、ささなみ染色工芸。
工房には色とりどりの布製品がかけられています。
創業は昭和54年。淳史さんのお父様が修行先から独立し、ここ余市でお店を開いたことが始まりです。のれんや旗、半被や半纏など、生まれる品は様々。北海道でも3~4社しかない希少なメーカーで、商圏は町内に限らず、札幌、函館、根室など全道に広がっています。
代表の笹浪淳史さん
色表現の難しさ 面白さ
染色の工程は色の調合と、染めの過程に分けられます。
染料を調合して色を作り、シルクスクリーンという技法を使い手作業で白い布を染めます。
調合を担当するのは奥様の千春さん。黒・ピンク・赤など、元々の数十色があり、それらを組み合わせてお客様の要望に合わせた色を表現するのだそうです。
染料の一部。1gの違いが大きな色の違いに
「曇りとか夕方に色を作ると失敗するの。蛍光灯のもとで作ると色が白っぽくなっちゃうし、晴れの日の太陽光で色を見るのが大事。外に出たり、外からの光を色んなところで確認します。中と外を行ったり来たりして。夏と冬でも仕上がりが違うの。難しいのは紫やエンジ、それと薄い色。」
淳史さんと結婚後、縫製や経理を担当していたという千春さん。やがて染料の調合を担当するようになりました。最初の頃は0.1gまで計れる秤を探したそうです。「100gの染料に1g入れただけで、全然違う色になるんです。0.1gから0.9gまで幅があるでしょ。その分色もぜんぜん違ってくるの。」
色見本。素材が変わると色の出方見え方も変化する
たくさんの紙や布の色見本から、お客様に希望の色を選んでもらい、イメージに近い色を布上に表現する。それはとても繊細でシビアな作業です。
「染料の量と、反応の仕方、布の素材で色に変化が出るから、色の質の統一には気を遣うし技術が要るんだよね。そういうシビアなところを感覚で整えてる感じ。」と淳史さん。
辛いのは、イメージした色が出ない時。時にはお客様と何度もやりとりし、イメージ通りの色になるまで何回も試作を重ねることもあるそうです。
お客様のイメージに近づくため試作を重ねる
淳史さんは続けます。「大変なんだけど、シビアな色を出したい、という時に向き合ってくれるところはなかなかない、とも言われるね。」
「試作品を何度も作ったりとかね。お客様のお話を伺って、たとえばターコイズでも、どんなターコイズなのか、とか。この色見本のどれがターコイズだと思う?人によって青っぽかったり緑っぽかったり、それぞれターコイズのイメージが違うのよね。」と千春さん。
ターコイズと近似色の試作
思ったとおりに仕上がったときは嬉しいが、「完璧な時は意外と少ない」と淳史さんは言います。
発色など、「もうちょっとこうしたら良かったなとか」必ず反省点が出るそうです。「そうしたところが面白いところでもあるのかな。」
「染色ってたとえば型の切り出しとか、ある程度は機械作業だけど、色の調合や染めの作業は人の手にかかっている。そういうところも面白いところでもあると思う。」
ムラなく均一に染めるシルクスクリーン技法は熟練の技
染めで表現するYoichiタータン
淳史さんにYichiタータンの「織り」の模様を、「染め」で表現した時の話を伺いました。
「タータンチェックは織物のイメージだし、染めでチェックをやることは少ないから、たまにはいいかなと。チェック模様にするのはそんなに難しくはなかったね。染める生地によって雰囲気が変わって、織り物のように見えたりもするのも面白い。」
タータンのぬいぐるみを試作中
マスクや小物など、Yoichiタータンの商品化にも関わっている淳史さん。
「Yoichiタータンのアイテムを身につけて頂いて、日常の彩りにして頂ければ一番いい。そしていずれ、多可町のような本格的な織物の生産が得意な産地に繋いでいけたらいいね。」
2022年3月には、Yoichiタータンを通じて兵庫県多可町との縁が繋がりました。淳史さんは多可町で開催されたタータンサミットにもパネリストとして参加しました。
多可町はオリジナルタータン、タカタータンを持つ伝統の播州織の産地です。その多可町と連携し、織物でYoichiタータンを作ろうという動きも生まれています。
タータンを通じて繋がった兵庫県多可町との縁
ビジョン
淳史さんに、これからのささなみ染色工芸について伺いました。
「なかなか難しいかもしれないけれど、地元のものが使えるようになったらいいね。母が藍染めを趣味でやっていたんだけど、隣の仁木町では藍染めがあるよね。安定生産なんかは難しくても、染料と染めの技術でコラボしたりとか。
できれば何らかの形で地域貢献したいから、染めを学ぶインターンを受け入れたりしてるよ。地域に根ざした染物屋さんとして、観光にも繋がっていったらいいし。」
「下請けでやってきたけど、Yoichiタータンだけじゃなくて、バッグなんかの布製品を製品化して自社ブランドとして提案していきたいね。それと新技術の導入もしたい。染色は裏が白いという特徴があるけれど、裏も染められる技術の導入も検討しています。」
更なる進化を目指す、淳史さん。
「これからは遠く離れた地域でも、ネットワークで繋がって、それぞれの得意分野から新しいものを生み出していけたらいいよね。」
柔和な笑顔に宿るのは、理想の色と染めを探求する職人魂。思い描くのは、広くゆるやかに繋がる世界。
彩りが喜びとして広がりますように。
そんな声が心に響く、余市の染め物屋さんのお話でした。
ささなみ染色工芸
北海道余市郡余市町大川町16-16-3
TEL 0135-23-6878
FAX 0135-23-8313
撮影・文 田口りえ
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