主役は余市の果物! 語らない探求者 余市リキュールファクトリー

黒い壁と青緑の瓦のお店入口の写真

 

JR余市駅から徒歩2分。商店街の一角に佇むのは、シックな黒壁と木製フレーム、樽の引き手が印象的な外観のお店。

お洒落でポップ、セレクトショップのような店内に並ぶのは、宝石のように輝く余市産フルーツのリキュールたちです。

 

オレンジや黄色、ダークレッドのフルーツリキュールが30本以上並んでいる余市リキュールファクトリーの写真

余市リキュールファクトリーは2021年春オープン。オーナーの寺尾光司(てらおこうじ)さんが製造から販売まで、全過程を手がけるリキュール醸造所・販売店です。

フルーツリキュールにはすべて余市産の果物を使用。りんご・ぶどう・桃・フランボワーズなどのベリー類・トマトなど、町内で大切に育てられ収穫された果物たちが、旬の美味しさそのままにリキュールとなっています。

その数はりんごのリキュールだけでも10種以上。同じ品種でも、生産農家さんごと、収穫時期により異なる味わいや色など、そのバリエーションの豊かさに驚きとワクワクが広がります。

 

巨大なワイングラスを持って見せてくれる余市リキュールファクトリー寺尾さんの笑顔の写真

 

語らない人

柔和な笑顔と愉快なお話。時折垣間見える冷静で厳しい視線。

主役は余市の果物であり、リキュールという結果がすべてだと言う寺尾さん。だから、「ストーリーなんて語れないよ」と笑う。

「おいしい!っていう結果が全てだからね。このお酒のストーリーは…とか、僕の哲学をお酒に込めて…なんてない。ただ果物の一番美味しい状態をリキュールで再現したい。お客さんの心に響く、いいものを造りたい。」

リキュール造りにおいて、自分という存在が前に出ることは一切ない。それが寺尾さんのポリシー。

そんな寺尾さんという余市の人の人生と、余市という町、果樹への想い。今回は少しだけ伺うことができました。

 

 太陽の光を浴びるリキュールのカラフルな瓶が木製棚に並ぶ写真

 

自分にしかできない道

寺尾さんは余市生まれの余市育ち。

「父親が床屋さんで、余市の老舗企業の創業にも関わっていて。そういう親を見てきたから、将来サラリーマンになる、というイメージはなかった。」

大学では工業系の科目を専攻。卒業後、小樽で兄の仕事を手伝ったあと、酒造りの名門 小樽田中酒造に入社。製造の現場で15年以上、杜氏としても長年経験を積み、シビアな商品開発も数多く手がけてきました。

いずれ会社を出て事業を興すことを考えた時、「勝負するならやっぱり酒」と思ったそうです。

これからの世界情勢を見渡した上で将来性を感じる酒はどれか。自分にしかできないもの。故郷である余市にふさわしいもの。たくさんある余市の果物を活かせるもの。まずは小規模から始められるもの。それらを冷静に「調合」し、生まれたのがリキュールという道でした。

 トマトリキュールを調合する余市リキュールファクトリー寺尾さんの写真

この日調合したのは中野ファームの桃太郎トマトリキュール

 

 「旬」を一年中楽しむ

北のフルーツ王国とも呼ばれる余市は、果物の名産地です。

りんご・ぶどう・なし・プルーン・もも・ベリー類など、冷涼な気候で育つ果物はほぼすべて栽培されています。けれど、果物の旬の時期は、決して長くはありません。

そこで寺尾さんが考えたのが、「最高に美味しい余市の果物を、一年中楽しんでもらうこと。」その答えがリキュール造りだったそうです。

 

果物の一番美味しい状態を、そのままリキュールで再現する。

それは一見シンプルなことのように思えます。が、シンプルこそ最も難しい。そのことを思い知らされるのがリキュールの世界です。

 

 木製搾汁機に手を置く余市リキュールファクトリーの寺尾さん

木製の搾汁機。果実の種類屋状態で搾り方を変える。絞りすぎると雑味になるため、加減とタイミングが大切になる

 

決め手は調合

搾汁・調合・瓶詰め・ラベリングというリキュールの製造工程において、味わいの決め手となるのは搾汁と調合です。とりわけ調合は、味覚・嗅覚・触覚に代表される五感の鋭さと、冷静な客観性、化学的な知識と技術がものを言うシビアな作業。

リキュールの原料は、果汁・アルコール・酸・糖分。これら調合し、バランスを整えます。「点ではなくて、面でもなくて。色んなものが釣り合うところをパッと掴んで、調合します」

搾汁した果汁を試飲し、調合がすぐに浮かぶのは、酒造りの仕事に長年携わってきた経験があるから。

「自分の舌で感じて、果実の味わいと同じように、旬の状態と同じように整える。ただ「美味しいな」じゃだめで、何がどうして美味しいのか、何が嫌なのか、どうしたら改善できるのか。それをクリアにしていく作業」その過程はまるで、利き酒のような世界だそうです。

 

 木製の作業台でフルーツリキュールにラベルを貼る余市リキュールファクトリー寺尾さんの写真

 ラベル貼りは手造りの作業台で一つ一つ丁寧に

 

お話のなかで寺尾さんが何度か言葉にしたのは、「余市の人にとって嬉しい楽しい」ということ。

「うちの町にいいものがある。自分の作った果物が誇りになる。嬉しい楽しい!に繋がる。だから『余市』リキュールファクトリーにしたんだよね。やっぱり余市で、余市の果物で、「美味しい!」に特化したものを造りたい。」

 

余市リキュールファクトリーの看板。黒地にカラフルなフルーツのイラストが瓶の形に並んだポップな看板の写真

 ビジョン

今は特区認定の免許のため、原料の地域、原料そのもの、製法についての制限があるそうです。原料に使用できるのは余市産の果物のみ。果実の種類も18種と限られています。

目標は近いうちに一般免許をとり、まずは使用できる果物の種類を増やすこと。

次に隣町の仁木の原料を使い、地域の特徴が際立つリ色んなキュールを造ること。「そうすることで、それぞれの地域の特産品を作れるんだよ、というのを見せたい。」

いずれは北海道に限らず、本州、海外の特産品づくりにも役立てたらいい。そうやって世界を広げながらも、道内でやっていきたい、と考えているそうです。

「町の人に喜びを提供しつつ、自分の生活が成り立てば、こんなにいいことはないよ」

柔らかな笑顔から漂うのは、余市が果物の町なんだという誇り。その誇りと伝統を守り育て、発展させていくのだという気概。

レトロな雰囲気漂う余市の駅前にも、新しい風が吹き始めました。

余市リキュールファクトリーの寺尾さんが木製の店舗入口前で微笑む写真

余市リキュールファクトリー

〒046-0003 北海道余市郡余市町黒川町8-2 1階

TEL 090-9526-9773

営業日:土・日(平日の営業に関してはお問合せください)

 

撮影・文 田口りえ