ゆるやかに交わる場所で コミュニティ茶屋necco
余市川河口の左岸、余市湾のほど近くに広がる入舟町。住宅街の一角に佇むのは、アーチを描く白い窓が印象的な建物。一歩入ると、木製インテリアと漆喰塗りの白壁が優しい心地良い空間が広がります。
今回の余市ストーリーの舞台は、コミュニティ茶屋necco(ねっこ)。
障がいを持つ方と持たない方が一緒に仕事をし、町の人とゆるやかに繋がることを目指して2009年にオープンしたお店です。
店内に並ぶのは、手造り味噌やクッキー、ドーナツ。エルラプラザでも人気の自然素材でハンドメイドされた小物たち。
エルラプラザでも人気の優しいお菓子や彩り豊かな小物が生まれる現場を訪ねました。
ご案内くださったのは、コミュニティ茶屋necco、サポートセンターたね所長の荒川真司さん。
「来てくださってありがとうございます。通所者の皆さんも作業の様子を見てもらえると喜ぶと思います。」と、柔らかな笑顔で迎えてくださいました。
neccoの人気商品 手造り廃油石けんを手にする真司さん
「ここは敷地内に4つの建物があって、それぞれ作業場や事務所、デイサービスとして通所者さんが時間を過ごす場所になっています。通所者さんにも色々な方がいて、就職のために職業訓練として通所する方、ここで働くことで作品づくりや作業をする方、作業はできないけれど、ここで時間を過ごす方などがいらっしゃいます。企業からの請負作業をしたり、石鹸やお菓子、羊毛フェルト雑貨などの自主製品を製作していて、スタッフが一緒に作業をしながら見守ったりしています。」
好きなこと、得意なことを仕事に
この日、調理場で作っていたお菓子はチョコレートマフィン。あたりにふわりと甘い香りが漂っています。
お菓子作りは正確さと根気の要る作業。通所者さんが一つ一つきちんと丁寧に計量し、手際よく作っていきます。「正確に計ることなど、お菓子作りに必要な作業が得意な方が担当されています。
素材は道産にこだわっていて、小麦は江別などです。牛乳や卵も道産で、安心安全で美味しいものを作っています。」と真司さん。
続いて訪問したのは羊毛フェルト雑貨の作業スペース。この日は余市町キャラクターの「ソーラン武士‼」のマスコットを制作中でした。
丸めたふわふわのフェルトにトントンと素早く針が刺され、みるみるうちにお顔の形になっていきます。「簡単ですよ」と通所者さんは笑顔で話しますが、こちらも根気と集中力が必要とされる仕事です。
続いて拝見したのはハーブのリーフ取りの作業。余市教育福祉村で栽培されたハーブを預かり、枝から葉の部分だけを取り出します。ピンセットで丁寧につまみ、ゴミを取り除く作業です。
作業中の方にお話を聞くと、「とっても楽しいです!」と笑顔。
働く通所者さんの様子を見ながら、「皆さんそれぞれ得意なこと、好きなことを仕事にしています。」と話す真司さん。住み慣れた町で、好きなことや得意なことが仕事になる。それは理想の暮らしだ、という思いが浮かびます。
余市との縁
日々通所者さんとスタッフの様子を見守る所長の真司さん。真司さんと余市との縁は転勤。2019年、倶知安にあるコミュニティ茶屋の母体、NPOしりべし地域サポートセンターから異動で余市に越してきたそうです。
「大学では福祉とは関係のない学科にいました。」という真司さん。この仕事を目指したきっかけは、大学在学中に講師に来ていた先生に、「ガイドヘルプ」という仕事について聞いたことだったそうです。
ガイドヘルプとは、一人では外出できないなどの障がいを持つ方に付き添い、歩行や買い物など、日常生活のお手伝いをする活動のこと。その活動を初めて知った真司さんはこう感じたそうです。
「先生からガイドヘルプの話を聞いて、障がいを持つ人も、普通に遊びに行ったり、買い物したりするよな。自分達も大人になると、親と一緒に映画に行ったり遊びに行ったりしないよな。一人の人として、外出するのは当たり前だよな、と感銘を受けたんです。」
真司さんはその後、ホームヘルパーの資格を取得し、しりべし地域サポートセンターに就職。以来十年以上この仕事を続けて思うのは、「障がいを持った方が特別というわけでもないし、自分達も特別じゃない。みんな普通に、当たり前に暮らしているということ。障がいで言葉を発することができなくても、私たちと同じ気持ちを持っている。同じように楽しさや喜びを味わってほしい。そう思っています。」
地域とゆるやかに交わる場に
これからのneccoについて、思うことを伺いました。
「通われている皆さんのお給料が上がるように、販路の開拓や新商品の開発に力を入れていきたいです。ここに通うことで、好きなことをして暮らせるだけの収入があるように。」
コロナ禍の間は、ランチ提供の中止や小物の販売先からのオーダーストップなど、経営的に厳しい状況が続いているそうです。今も様々な努力を続け、8月に新しいコミュニティ茶屋neccoとして展開するため、店舗リニューアルの準備を進めています。
「私がこちらに来てからコロナとなり、地域の方と交流するのが難しい期間が続いたのですが、やはり、地域の皆さんと交流を持ちたいです。neccoという場所は交流が目的だから、郊外ではなく、町のなかの普通の住宅街のなかに建物を作っているんです。
お店は今までは土足厳禁にしていたのですが、リニューアルしたら靴のまま気軽に入って来られるようにする予定です。ここで買ったお菓子を食べておしゃべりできるように、イートインスペースを作ろうかと。地域の方がより気軽に集まれるような、新しいneccoにしたいなと思っています。」
今年の9月には、『コミ茶祭り』を開催する予定だそうです。「お祭りの時は地域の八百屋さんに来て頂いたり、フリーマーケットを開催して、通所者さんがお店に立ったりしていたんです。それを3年振りに復活させたいですね。」
住み慣れた場所で、誰もが同じように、当たり前の暮らしができるように。
余市という町のなかでゆるやかに繋がるように。
コミュニティ茶屋neccoの「根っこ」の部分は、今も受け継がれ、新しい花を咲かせようとしています。
撮影・文 田口りえ